Ep.002 日雇い派遣バイト列伝① 一片のチーズケーキ ~私たちは、まだ知らない。~


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世の中には様々な職種、業種がある。
同時に雇用形態も多数存在している。

 

皆さんは知っているだろうか。

 

日雇い派遣バイトという、
バクチのような雇用形態を。

 

このコーナーではそんな日雇いバイトに勤しむ私が

 

体を張って体験した

良いこと、

悪いこと、

裏話・裏事情等を

 

民法の範囲内で紹介していく。

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ーある寒い日の夜ー


日雇いバイトの夜は遅い。


20時開始、駅から徒歩35分。


到底歩けるはずもなく、
私はカローラのセルを回す。

 


現場に向かうにつれて

段々と街頭が減り、

遂に信号もない田んぼ道へと

吸い込まれていく。

 


今日の業務は

 

食品物流倉庫でのピッキングだ。

 

ピッキングとは、倉庫の中で

商品を次の配送先に仕分けするため、

棚から必要なモノを取ってくる作業を指す。

 

悪い仕事ではないが

 

本当に楽しく働けるか

どうかはバクチだ。

 

行ってみないと分からない。

 

到着。

苦手なバッグ駐車をして
ハイビームを消すと
やはりあたりは真っ暗闇だ。

 

担当者へ挨拶。
事務所へ駆け足で向かう。

 


その仕事が

当たりか外れかどうかは

 

業務内容

現場の外観

担当者の人柄

 

の3つで9割が決まる。

 

今回は、

 

外観よし

担当者よし

業務内容よし


3方よしの

中々ない好条件だ。


だが、朝?礼の時間に

急な業務変更。


なんと

倉庫の温度が分かれていて


なぜか巨大な冷蔵庫の中

 

に入れられることに。

 

 

今日は上2枚で

秋用の上着という超薄型。

 

案の定

 

独り、

極寒冷蔵庫のなかで

凍え、悶える、112kg。

 


南極観測隊のなかに

 

1人勝俣州和

いるような光景

 

である。

 

そして作業は深夜、つまり

 

眠気

寒さ

疲れ

 

この労働者ブッ壊しの

キングギドラと闘わなければならない。

 

 

 

(温かい企業なのに冷たい倉庫か、、、)

 

とか思いながら、

ハンドデバイスの指示通りに

二人の日雇いとピッキングを続ける。

 

 

作業に慣れてきた

深夜02:35。


事件は突然起こった。


品は業務用固形油25kg。


なんと商品が

 

一番上の棚にあるのだ。

 

通常ならフォークリフト

取ってくれるのだが、

休憩中のため稼働できない。

 

加えてその品は納期が迫っていて


何としても

 

03:00までに

 

出庫しなければならないモノだったのだ。

 

今日が初対面である

私たち三人の日雇いは

白い息をよどませながら

目を合わせ、
(やるしかない、、、!!)


と強行突破することを即座に無言で選んだ。

 

台車をロック。

 

別の箱で固定。


即興で体を3℃の中組み合わせる。


2.5段のスペシャル日雇い肩車。

声を出しながら上の日雇いが荷物を取る。
極寒倉庫に響きわたるオッケーの声。

それをゆっくり、全身にちからを入れて下へと壁伝いで送る。

途中荷物を滑らせそうになる。
やっと手元へ。ずっしり重い。

一番上の日雇いさんに感謝。
彼らはやはりただ者ではない。

この日の峠を越え、仕事が終わる。
朝日の残照と薄暗い空色の雲に
照らされながら帰路に着く。

ふと小腹が空いたことに気付き、
今度は頭から駐車して小走りで
コンビニの自動ドアをくぐる。

何品か選んでいるうちに
あの倉庫にあった原料の油が
頭に浮かんできた。

目の前には廃棄ギリギリ予定コーナー。みな赤い特売シールを貼られた
商品たちが並んでいる。

その中にあった赤シールのチーズケーキ。普段あまり好んで食べないが
なぜか不意に手に取り、成分表示をその半開きの目で眺めていた。

すると何時間か前に肩にズシンと担いだあの、あの油の名前が
目を開くように飛び込んできた。

よく見ると外箱は少しへこみ
アスファルトで擦ったような痕がある。

 

私は知らなかった。

これだけのものを作るための材料が使われ、運ばれるのにあんなことが行われているなんて。

ましてやロボットなんかでなく、
深夜にオッサン3人が薄暗い4℃の倉庫の中で肩車してまで調達してるなんて。


私は知らなかった。

経営学を専攻している私は、
ビジネスモデル作成の際に
ノートの上でコンビニから倉庫、倉庫から工場へと引いていた一本の矢印たちに
ここまで太さや長さ、そして濃さがある
ことなど気付きもしなかった。


(よう、おまえも大変だな。)


と私は両手でそっとそのチーズケーキを
レジまで運んでやった。

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同じ対価を通貨として受け取るにしても
嫌な仕事、社会的評価が気になる仕事、
かっこいい仕事、華やかな仕事がある。

私は無論これらに優劣をつける必要はなく、職業選択の自由があるからこそ仕事に対して求めるものが自己成長や自己実現など対価だけではなくなったからこそ
己が選んだもの、または選びざるを得ないものに対して何かしらの価値を見いだしていくのだと。

そしてその対価を使うとき
二言は必ず言うべきだと。

「いただきます。」「ありがとう。」